褒められると落ち着かないのはなぜ?受け取れない心の仕組み
あなたは今、
誰かに褒められたとき、
心のどこかがざわついて、
落ち着かなくなることはありませんか。
「すごいですね」
「いつも助かっています」
「その服、似合っていますね」
そう言われた瞬間に、
嬉しさより先に、
居心地の悪さが立ち上がってくる。
そして気づけば、
「いえ、そんなことないです」
「たまたまです」
「もっとできる人がいますから」
と、打ち消す言葉が
口から出てしまっている。
あとになって、
どうしてあんな言い方をしたんだろう、
素直に喜べばよかった、
と思う。
でも次のときも、
やっぱり同じことを繰り返してしまう。
もしあなたがそうなら、
それは性格の問題でも、
ひねくれているからでもありません。
心の仕組みとして、
そうなる理由があるんです。
受け取れないのは、自己イメージとのズレが苦しいから
私たちは誰でも、
自分についてのイメージを
心の中に持っています。
私はこういう人間だ、
これくらいの価値の人間だ、
という感覚です。
これは頭で考えて決めたものではなく、
生きてきた時間の中で、
少しずつ形づくられてきたものです。
そして人の心には、
このイメージを保とうとする働きがあります。
安定していたいからです。
だから、
自分のイメージより高い評価を差し出されると、
心はそれを異物のように感じます。
「私はそんな人間じゃない」
そのズレが、
あの落ち着かなさの正体なんですね。
打ち消す言葉は、
自分のイメージを
元の位置に戻そうとする働きなんです。
つまりあなたは、
わざと素直じゃない態度を
取っているのではありません。
心が、
いつもの自分に戻ろうとしているだけなんです。
「褒められると怖い」の奥にあるもの
もう少し深いところを見ていくと、
褒め言葉を受け取ることに、
不安がくっついていることがあります。
期待されたら、
それに応え続けなければいけない。
一度いいと思われたら、
がっかりさせるわけにはいかない。
そう感じると、
褒め言葉は贈り物ではなく、
これから背負う荷物のように
感じられてしまいます。
だから受け取る前に、
「たいしたことないです」と
先に荷物を下ろしてしまう。
期待されなければ、
落胆させることもない。
これは、
傷つかないための知恵として
身についたものです。
責めるようなものではありません。
ただ、その知恵は、
同時に喜びも締め出してしまうんですね。
いつから受け取れなくなったのか
こうした感覚の多くは、
子どもの頃の体験と
つながっていることがあります。
たとえば、
できたことよりも
できなかったことを先に指摘される環境。
「よくやったね」より
「まだここが足りない」が
先に来る毎日。
きょうだいや友達と比べられて、
自分の良いところが
当たり前として流されてきた時間。
あるいは、
喜んだり自慢したりすると
「調子に乗るな」と言われた経験。
そういう積み重ねの中で、
子どもはひとつのことを学びます。
自分を高く見積もるのは危ない。
低くしておいた方が安全だ。
これは、
その環境を生き抜くために
必要な学びでした。
とても賢い適応だったんです。
ただ、
その学びは大人になっても
心の奥に残り続けます。
もう安全な場所にいるのに、
昔のやり方で
褒め言葉を押し返してしまう。
あなたが今、
受け取ることに苦しさを感じているとしたら、
それは今のあなたの問題ではなく、
昔のあなたが身につけた
守り方が残っているだけ、
とも言えるんですね。
打ち消す言葉が、相手にどう届いているか
ここでひとつ、
視点を変えてみます。
あなたが誰かに
「その考え方、素敵ですね」と伝えたとします。
相手が
「いえ、全然そんなことないです」
と即座に否定したら、
どう感じるでしょうか。
少し寂しい気持ちに
なるかもしれません。
自分の感じ方を
否定されたようにも感じます。
褒め言葉は、
相手の中に生まれた気持ちです。
それを打ち消すことは、
謙虚さのつもりでいて、
相手の気持ちを
返してしまうことでもあるんです。
あなたが素直に受け取ることは、
自分のためだけではありません。
伝えてくれた相手の気持ちを、
そのまま大切にすることでもあるんですね。
受け取れないことは、暮らしのあちこちに顔を出す
褒め言葉の話をしてきましたが、
受け取りにくさは
そこだけに留まりません。
人間関係では、
頼ることができなくなります。
手伝いましょうかと言われても、
「大丈夫です」と反射的に答えてしまう。
本当は手が回っていないのに、
一人で抱え込んでしまう。
そして限界が来たときに、
誰も助けてくれなかった、
と感じてしまうことさえあります。
けれど周りから見れば、
あなたはいつも
大丈夫だと言っていた人なんですね。
仕事の場面では、
評価を素直に受け取れないぶん、
自信が積み上がっていきません。
うまくいったことは
運が良かっただけ、
まわりのおかげ、と流してしまう。
うまくいかなかったことだけが、
自分の実力として
心に残っていきます。
これでは、
どれだけ経験を重ねても、
自信がたまらないのは
当たり前なんですね。
お金についても、
似たことが起こります。
自分の仕事に見合った金額を
言い出せない。
値引きを申し出てしまう。
無償で引き受けてしまう。
受け取ることへの抵抗は、
気づかないうちに
暮らしの土台のところまで
影響していることがあるんです。
「与える側」でいれば安心できてしまう
受け取るのが苦手な方の多くは、
与えることがとても上手です。
気配りができて、
先回りして動けて、
まわりから頼りにされている。
素晴らしい力です。
ただ、その裏に
こんな気持ちが隠れていることがあります。
役に立っていれば、
ここにいていい。
何かをしてあげていれば、
嫌われない。
つまり、
与えることが
自分の居場所を確保する手段に
なってしまっている状態です。
そうなると、
受け取る側に回ることが
とても不安になります。
何も返せていない自分には
価値がないように感じるからです。
だから、
何かをしてもらったら
すぐにお返しをしたくなる。
貸し借りをゼロにしておかないと
落ち着かない。
心当たりがあるとしたら、
それはあなたが
一生懸命ここにいようとしてきた証です。
でも本当は、
何かをしてあげなくても、
あなたはそこにいていいんです。
潜在意識は、繰り返した回数を信じる
私たちの心の深いところは、
理屈で説得されても
すぐには変わりません。
正しい言葉より、
繰り返された体験を信じます。
「自分は受け取っていい」と
頭で百回思うより、
実際に受け取る場面を
十回通った方が、
心の奥は動いていきます。
ヒプノセラピーで
子ども時代の場面に触れていくのも、
そこに理由があります。
思い込みが作られた
その場面まで戻って、
今の自分の目で見直したとき、
「もう同じやり方をしなくていい」
と心の奥が納得することがあるからです。
ただ、
セッションを受けなければ
変わらないわけではありません。
日々のやりとりの中で、
受け取る体験を重ねていくことも、
同じように確かな道のりです。
大切なのは、
自分を変えようと力むことではなく、
小さな場面を
ていねいに通っていくことなんですね。
心がついてこなくても、言葉だけ変えていい
では、どうしたらいいのでしょうか。
まず知っておいていただきたいのは、
気持ちを先に変えようとしなくていい、
ということです。
「嬉しいと思えるようにならなきゃ」
と自分に課すと、
思えない自分をまた責めることになります。
それでは苦しさが増えるだけです。
順番は逆で大丈夫です。
言葉を先に変えて、
気持ちは後からついてくる。
それでいいんです。
やってみていただきたいこと
一、返事を「ありがとうございます」だけにする
否定の言葉を足さない。
説明も言い訳も要りません。
心の中で落ち着かなくても、
表に出す言葉だけ変えてみてください。
二、心の中でつぶやく
「今、私は受け取ろうとしている」
そう自分に言ってあげます。
落ち着かない感覚が出てきたら、
それを消そうとせず、
「ああ、いつものあれが来たな」と
眺めてみてください。
感覚は、
抵抗しなければ通り過ぎていきます。
三、小さなことから始める
道を譲ってもらった。
荷物を持ってもらった。
「今日は顔色がいいね」と言われた。
日常には、
受け取る練習の機会が
たくさん転がっています。
大きな評価より、
小さなやりとりの方が
練習しやすいものです。
四、一日の終わりに書き出す
その日、
自分が受け取ったものを
ひとつでいいので書いてみます。
書くという行為は、
流れていく出来事を
自分のものとして留める働きがあります。
続けていくと、
自分は何も受け取っていないという感覚が、
少しずつゆるんでいきます。
受け取ることは、自分を認め直していく道のり
受け取る練習を続けていくと、
あることに気づきます。
差し出されたものを受け取るたびに、
「自分はそれを受け取っていい存在だ」
という体験が
少しずつ積み重なっていくのです。
自己肯定感は、
気持ちを奮い立たせて
手に入れるものではありません。
小さな体験の積み重ねで、
静かに育っていくものです。
自分を認めようと
力を込めなくても、
受け取ることを重ねていけば、
自己イメージの方が
少しずつ動いていきます。
やがて、
褒め言葉を差し出されたときの
あの落ち着かなさが、
薄れていることに気づく日が来ます。
焦らなくて大丈夫です
長い時間をかけて
身についた守り方は、
一日では変わりません。
うまく受け取れない日があっても、
それは失敗ではありません。
昔のあなたが、
一生懸命あなたを守ろうとしてくれた、
その名残りです。
だから、
できなかった日は、
「よく守ってくれたね」と
心の中で声をかけてあげてください。
そして次の機会に、
また「ありがとうございます」と
言ってみればいいんです。
受け取ることは、
図々しくなることでも、
謙虚さを手放すことでもありません。
人と気持ちを
やりとりできるようになる、
ということです。
あなたは今日、
誰かからの言葉や優しさを、
そのまま受け取ってあげられそうですか。